バヌアツは観光宣伝で「地球最後の楽園」とうたわれていますが、それを数字で裏付けるレポートが出ました。日本に一時帰国中の同僚ボランテイアが、最近イギリスのシンクタンクが発表した「幸福度指数」ランキングで、バヌアツが第一位にランクされ、一部のマスコミが騒いでいる、という情報を伝えてきました。いい加減な観光人気投票の類かと思いましたが、気になるのでネットで調べてみると、このレポートはロンドンの「nef」(New Economy Foundation)という調査機関が出したもので、全文59頁の大マジメなものとわかりました。
原文タイトルは「THE (UN)HAPPY PLANET INDEX」で、英国人らしい皮肉もチラリと見えます。斜め読みなので、誤解・曲解があると思いますが、要するに、GDP(国内総生産高)などの従来の経済指標で豊かさ競うのは時代遅れで、地球という惑星に生きる生物としての人間の幸福感を測る新しい指標を提起する、という内容のようです。「幸福度指数」は、分子に「人生への満足度 X 平均寿命」、分母に「地球環境への負荷度」を置いて算出したデータで、夫々に複雑な乗数が掛けられたり、恣意的な想定数字が使われていたりしているので、必ずしも公平な比較とは言えないとも思いますが、しかし、成る程、こういう考え方もあるな、と思わせられました。(原文サイトは http://www.happyplanetindex.org/ ですが、その後内容が差し替えられました。発行当時のランキング部分のコピーはここをクリックしてご覧になれます 2011/5/15)。
評価内容をくだくだと説明するよりも、他の国との比較の方が分かりやすいと思うので、以下に気になる国々の各項目の評点と綜合スコアを抜き出してみました。
順位 | 国名 | 人生満足度 | 平均寿命 | 地球環境負荷 | 綜合スコア |
トップ | バヌアツ | 7.4 | 68.4 | 1.1 | 68.2 |
2 | コロンビア | 7.2 | 72.4 | 1.3 | 67.2 |
13 | ブータン | 7.6 | 62.9 | 1.3 | 61.1 |
19 | キルギス | 6.6 | 66.8 | 1.1 | 59.0 |
31 | 中国 | 6.3 | 71.6 | 1.5 | 56・0 |
54 | ネパール | 5.5 | 66.6 | 0.6 | 50.0 |
65 | スイス | 8.2 | 80.5 | 5.3 | 48.3 |
80 | ドイツ | 7.2 | 78.7 | 4.8 | 43.8 |
93 | ニュージーランド | 7.4 | 79.1 | 6.6 | 41.6 |
94 | 日本 | 6.2 | 82.0 | 4.3 | 41.7 |
111 | カナダ | 7.6 | 80.0 | 6.4 | 39.8 |
150 | USA | 7.4 | 77.4 | 9.5 | 28.8 |
172 | ロシア | 4.3 | 65.3 | 4.4 | 22.8 |
最下位 | ジンバブエ | 3.3 | 36.9 | 1.0 | 16.6 |
このレポートを同僚のバヌアツ人に見せたところ、喜ぶどころか憮然たる表情をしたので、この話題は早々に切り上げました。全く就学経験のない人が2割近くあり、電気の来る家庭が2割に満たず、首都を除けば車の走れる道路が殆どないような暮らしの中で、「君達は満足しながら長生きしているよ」と褒められても、「お前らはノー天気だよ」と言われたに等しい、と鋭く感じたに違いありません。 (写真:村の暮らし)
豊かな自然の中でゆったりと生きているバヌアツ人は、加速的な文明に追われ疲れた我々から見ると羨ましく見え、資源を食い散らかして文明をむさぼって来たことを反省する気分になるのですが、少しでも「文明」を垣間見たことがあるバヌアツ人にとっては、先進工業国のように経済的に豊かになりたい、という念願を強く持つのは当然で、その世話を焼きに来る小生のようなお節介者も居るわけです。
上の表でわかるように、この「幸福度」の計算では、「地球環境負荷度」というマイナス指標での割り算が支配的です。少ない環境負荷で豊かな人生を実現することがこれからの人類の課題、という論旨には全く異論ありません。先進国が本気で環境問題に取り組まなければ、人類の未来があやしくなることは誰もが頭では理解していますし、70歳まで楽しく生きられれば結構じゃないの、という議論だって暴論とは言えないでしょう。しかし、旧共産圏のデータが示すように、他所の情報を知れば、自分たちの暮らしの惨めさは身にしみて分かるし、そうなれば満足度はドンドン下らざるを得ません。(写真:バヌアツ婦人連盟)
従来の経済的豊かさだけの尺度を覆そう、という試みは評価出来るにしても、この幸福度指数には、開発途上国側から見ると、決定的に何かが欠けているように思えてなりません。人間の生活にとって最小限のアメニテイは何か、過剰の側と不足の側がどう歩み寄るのか、という視点が加われば、お互いに納得できるかもしれません。