以下の「岩になったウタニマヌ」はモソの民話としてとりあげられているが、話の中にモソ島が出てこない。主人公のウォタニマヌが岩になったとうマタソ島はモソ島の北東約30Kmにあり、エマエ島は更に北へ20kmほど、エロマンゴ島はエファテ本島の更に 100kmほど南の島である。マタソ島の民話をモソ島で採集したのか、あるいは編集時に何らかの混乱があったのかもしれないが、確かめようがない。

まあ、詮索しても意味がない。バヌアツの神様は神聖でもなければ全能でもない。ちょっと変わった男がちょっとした超能力を備えていると思えばよい。八百万の神々の伝統を持つ我々には親近感が湧く。

岩になったウオタニマヌ:グータラ亭主の正体は・・

岩になったウォタニマヌ

ウォタニマヌは、マタソ島のすぐそばの海面からそそり立っている岩である。だが、そうなる前は、エロマンゴ島にいた。地殻変動の時代に、エロマンゴの海から生まれたのだ。エロマンゴでは、浜辺で魚を獲ってのんびりと暮らしていた。ある日、サンゴ礁で魚を獲っていた。巨貝のナタラエを見つけ、海底の岩からはがそうとしたが、挟まれてしまった。ウォタニマヌは怒った。なぜ怒ったかというと、彼が怪我をしたにもかかわらず、近くにいたエロマンゴの男たちは、ダンスのことしか頭になかったからだ。ダンスの音楽が気に障り、ダンスそのものにも腹が立った。彼は赤いブラオの葉のナヂビボウをちぎって、怪我をしたところを縛った。痛さに耐えながらダンスを見ていたが、タムタムが近隣の者まで呼び始めた。そのタムタムに腹が立った。それで、彼はカヌーを漕いでエファテの方へと去ったのだ。

カヌーには、彼の従者と、二人の妻、ワノブとオノが乗っていた。エファテに着くと、プラリの湾に入った。マニウラの隣の小さな村のプラリだ。そこでも、村人たちがタムタムを叩いて踊っていた。ウォタニマヌはプラリのダンスにも腹を立て、もう少し先のエパウに行った。そこで気が安まった。もううるさい音はなかった。大きなカヌーを浜につけた。そしてある日、魚獲りをしながらエマエに行った。

エマエの酋長にシーナと言う娘がいた。きれいな娘だった。シーナは食事を作るために浜で潮を汲んでいた。ウォタニマヌは娘を見て、話かけようかと思った。

「きれいな女だな。どうしようか?」

だが、その時は何もせず、カヌーに魚をいっぱいに積んでエパウに戻った。次の日、同じ場所に魚獲りに出かけ、同じ娘を見た。この時は話しかけた。

「あんたは昨日よりきれいだね。昨日は話しかけるのをやめたのだが」
「あなたが気に入ったわ」と女が答えた。
「だが、俺は遠くから来た者だ」
「私がほしいなら、家に来てお父さんにそう言ってください」
「わかった、行こう」

こうして、ウォタニマヌはエマエに住みついて、魚獲りを続けた。エマエの酋長は、自分の地位を誰か他の者に譲ろうと考えていた。彼は手下の者たちを使って畑をいくつも開墾させ、島にいた動物を家畜にするための大きな囲いも作らせていた。だが酋長は、ウォタニマヌが畑仕事もしなければ、豚の世話もしようとしないのに気付いていた。自分の命令に従わないような男と結婚した娘を咎めた。

女は父親に言われたことを夫に言い、グータラに暮らしていることを責めた。

「わかったよ。じゃあ、畑の草でもむしりに行くか」と夫は言った。

二人で畑に行って、ちょっとだけ草むしりをしたが、潮が引くのを見て、ウォタニマヌは魚獲りに行ってしまった。

父親は娘に二人で何をしていたのかを聞きただした。

「草取りをちょっと、それから魚獲り」

父親は義理の息子のグータラぶりをなじり、娘はそれを夫にそのまま伝えた。

「ナルアン(昇格の行事)の準備もしないような怠け者と一緒になったのは、いったいどういう了見だ?だって」

ウォタニマヌは妻を連れて、前の日にむしった草を燃やしに出かけた。夜のうちに夫の手下たちがエパウから来て、草取りを済ませていたとは、妻が知るはずもない。畑がすっかりきれいになっているのを見て、妻は驚いた。

「誰がやったの?」
「おれだよ!」

ウォタニマヌは草をちょっと燃やしただけで、また魚獲りに行ってしまった。父親は娘から夫の様子を聞き、苦言を重ねた。娘はそれを夫に伝えた。

「畑に行ってヤムイモを植えよう」というのが夫の答えだった。

畑に行ってみると、草はすっかり燃やされて、きれいになっていた。二人でヤムイモとサトウキビとバナナを一本ずつ植えたところで、ウォタニマヌはまた魚獲りに行ってしまった。女は見たとおりのこと父親に話した。

「誰がきれいにしたのかな?」
「自分だ、って言っていたけど」
「自分でだって? 何を植えたのかな?」
「ヤムイモとサトウキビとバナナを一本ずつ」

翌日、ウォタニマヌは妻を連れて畑に行った。畝が鋤かれ、野菜がきれいに列になって植わっていた。妻は驚いて聞いた。「誰が植えたの?」

「おれだよ」
「いつ?」
「夜のうちだよ」

妻は夫が手下を使っていることはまだ知らなかった。父親には夫が言った以上のことは何も説明が出来なかった。

畑の野菜が見事に育ち始めたが、父親は今度は豚を飼わないことにブツブツ言い始めた。妻がウォタニマヌに言った。「みんな豚を飼っているのに、うちは飼わないのね!」

ある日、彼は妻を連れて野菜に支え杭を立てる仕事をした。数本しか立てなかったが、翌日行ってみると、どの野菜にもぜんぶ支え杭がしてあって、草もきれいに取ってあった。娘はまた父親に報告した。二人は全くわけがわからなかった。

ウォタニマヌは手下の者たちを使って豚を囲う柵を作った。

親が娘に言った。「豚もいないのに、囲いを作ってどうするんだろうね?」

妻からそう聞いて、ウォタニマヌは手下の者たちに仕事を命じた。夜のうちに豚の鳴き声が聞こえ、朝になって妻が囲いを見に行くと、牙が円く巻いた立派な豚がたくさんいた。

「この豚は誰のものなの?」
「俺達のだよ。昨夜のうちに買ったのだよ」

娘は父親を連れて行ってそれを見せた。

ある日、その行事の日取りが決まり、村人たちが畑から畑へと収穫をして回った。サトウキビを刈り、ヤムイモを引き抜くのだ。他の男たちは両手でやっと引き抜くのに、ウォタニマヌは片手で軽がると抜いてみせた。彼は自分の畑には最後に収穫に来るように頼んだ。他の畑を全部合わせても一日で収穫が済んだのに、ウォタニマヌの畑だけで三日もかかった。

次に豚をナカマルに集めることになった。今度も、ウォタニマヌは自分の豚を最後にしてくれと頼んだ。他の男たちが一匹を二人がかりで天秤棒で担ぐのに、ウォタニマヌは豚の脚を一本つかむだけで軽がると担いだ。エマエ中の豚を集めるのに一日あれば十分だった。次の日、ウォタニマヌの豚を集めることになった。ウォタニマヌが手を出さなかったので、村人が総がかりで三日もかかってしまった。その翌日、豚は全部殺されて肉が一か所に集められ、エマエの人たち全員に分けられた。そうしている間に噂が拡がった。

「俺たちが束になってもあの男にかなわない。いったいあいつは何者だ?」
「あいつのことは何にも知らないぞ」
「ここの出の男ではないな」

昇格の儀式は二週間続き、皆はそれぞれ引き出物をもらって家に帰って行った。ウォタニマヌは妻に言った。「酋長は俺をグータラと呼んだが、これだけのことをやったのは、この俺だぞ。それなのに、村の連中は俺のことをよそ者だと噂している。どこの馬の骨かと言っている奴もいる。俺は出てゆく。義父に言ってくれ。お前とは別れる。俺は他所で住む場所を探す」

彼は手下と二人の妻を連れて去った。酋長の懇願を聞かず、酋長の位を譲るという申し出も断ったのだ。去る時に、ウォタニマヌは妻の一人を殺してサンゴ礁に供え、それはボンガロアの岩に変わった。彼には残った一人の妻と手下たちが従った。去る時にボンガロアの岩がウォタニマヌに語りかけた。

「まだ見えますよ。もっと遠くへ行ってください」

マタソのアリカオウ村の近くに着いた。その頃、ここの住民はタムタムを叩かず、竹を棒で叩くナタレという楽器で踊っていた。彼はその音を聞いて心地よくなり、ここで住みたいと言った。彼のの噂はもうここまで届いていたので、酋長たちは彼のことをよく知っていた。

「ここで居て良いが、暮らすのは村外れにしてくれ。村人が怖がっているから」
「そう、もうちょっと、もうちょっと向こうへ」

ウォタニマヌは遠ざかりながら聞いた。
「ここでいいか?もうちょっと下がるか?」
「いや、そこで良い。そこにいてくれ」

そこでウォタニマヌは岩になり、今もそこにいる。手下の者や小鳥たちも一緒だ。